レビュー

「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」レビュー

インフラ復旧に命を燃やせ! 国道だけでなく、モノレールも復旧の対象に

 大陸の要所を繋ぐ「国道」はもちろん本作でも健在だ。マップ上の国道端末に大量の資材を投入することで特定の場所に道路が出現する仕組みはこれまでと同じで、これを復旧させることで配送における大きなインフラとなる。

“「DS」といえば国道の復旧”、というイメージがあるサムワンは多いはず
SSSで繋がっていると国道復旧のための必要資材が大幅に減ることもある

 復旧のための資材は、前作では敵の拠点を襲撃して奪うスタイルが主だったが、本作においての資材は「採掘場」で入手することが基本となるようだ。採掘場は大陸の数カ所にあり、フィールドやBTの討伐時に入手できる「カイラル結晶」を消費することで採掘場ごとに違う資材を手に入れられる。

 一定量のカイラル結晶を使うとかなりの量の資材を入手できる。そのため、国道復旧も簡単なように思えるが、国道の各端末と採掘場の場所がマップ上の絶妙な場所に配置されたレベルデザインが施されていて、多くの場合長距離の資材運搬が必要になるなど、楽には復旧できないのがもどかしくも楽しいところだった。

採掘場は資材を掘り出す前に、国道と同様に復旧させる必要がある。採掘場のほとんどはモノレールや国道と繋がっている
カイラル結晶を入れると大量の素材が発掘される。採掘場のレベルを上げれば採掘量も増えていくが、必要なカイラル結晶の量も増えるので要注意

 なお今回の国道にはレベルの概念もあり、ゲームを進めてさらに資材を投入すれば、屋根付きでより高速で走れるようになっていく。筆者は今回のプレイではそこまで手が回らなかったのだが、SSSによって共有されたレベル2の国道の一部分を見ることはできている。国道の復旧に命を燃やしたプレーヤー諸氏にはさらなる目標が増え、やり甲斐のある作業となるはず。進化した国道の完成を目指して大陸を行き来していただきたい。

 もう一つのインフラ、「モノレール」は本作で初登場の鉄道で、こちらは国道とはひと味違い、列車に大量の物資や車両、サム自身を乗せて移動することができる。大陸にはいくつかの路線があり、配送センターや大型の居住施設、そして採掘場が駅となってそれらを繋いでいる。乗車は駅で行なうのが基本となるが、サムだけならレールの端末からジップラインで乗ることができるのもポイントだ。サムが「建設装置」を使って建てるジップラインと端末を接続することもできるので、レールを経由したジップラインのルートを構築するのも楽しくなりそうだ。

大量の荷物や車両を運搬できるモノレール。ファストトラベルではないため、移動シーンはスキップすることができない。のんびり眺めを楽しもう
モノレールの路線はジップラインで高速移動できる。端末ごとに止まるので、そこから範囲内のジップライン装置の方向にルートを変えることも可能

複数の敵に対し、単独で挑むサム。正面から戦うか、静かに敵を回避するかはプレーヤー自由だ

 プレビューでも触れた強化された戦闘要素については、ゲームをある程度やり込んでみると、武器の選択肢がいくつか増えただけでこんな面白くなるのかという手応えを感じられた。厳密なTPSではないものの、ヘッドショットで大きなダメージを与えらたり、遮蔽物を利用して敵の攻撃を避けたりと、お約束の戦い方も通用する。これはDHVマゼランなどで行なえる「VR訓練」の豊富なメニューから身に着けられるようになっている。

戦闘はTPSのスタイル。敵を倒すと時間の流れが一定時間スローになる独自の演出が導入されている
VR訓練は戦闘におけるチュートリアルのようなもの。新しい武器や敵が登場したときに新たなメニューが加わる

 戦闘は「DS」のゲームデザインの中で作られているので、配送の荷物を背負っている場合が多く、武器自体も荷物であるため、これらが戦闘時の負荷になってしまうこともある。戦闘任務に向けてゴリゴリに装備を固めると荷物が増えるという、本作ならではのジレンマも発生するのだ。

 その仕組みをフォローするのが、バックパックの荷下ろしだ。持っている荷物が多いと重量による負担がかかり、ステルス行動の際に見つかりやすくなるなど、デメリットが大きい。デフォルト設定なら△ボタンを長押しすることでバックパックをその場に置いて身軽な状態で行動できるようになるのだ。

バックパックを下ろして行動するサム。動きやすくなるが、装備できる武器の数が限られてしまう

 バックパックを置いたときのデメリットとしては、持てる武器が限られてしまうこと。サムには肩と両足に荷物を接続するハーネス(「スーツ固定部位」と呼称)があり、バックパックを下ろしているときは最大4か所のハーネスと、武器などを固定するツールハンガー、そしてハンドガン用のホルスターと、最大で6種の武器しか持てなくなり、荷物などを見つけてもその場で拾えないという弊害も発生する(ハーネスが空いていれば小さな荷物は持てる)。また運が悪いとバックパックを泥棒されてしまうハプニングが発生することもあるので、それらを念頭に行動することが必要となる。

離れたところに置いたバックパックが盗まれた! 警告音が鳴るので急いで泥棒を追いかけて取り返そう

 武器にはアサルトライフルやショットガンなどの銃器、グレネードなどの投擲武器の他、敵を捕縛する「ボーラガン」、地面に設置してカイラル結晶を発射する「カイラルショックキャノン」、ドローンのように空中に浮かんで敵を自動射撃する「フロートセントリーガン」、バリケードのように地面に立てることもできる盾「シールド」など、本作ならではの個性的な武器も登場。それぞれで攻撃対象も異なるので、依頼内容や配送ルートによってどれを選ぶか迷うことも楽しみの一つとなるだろう。

遠距離狙撃ができるスナイパーライフル。消音ができないため撃つと確実に敵に気付かれてしまう。また麻酔銃なので人間にしか効果がない
ロープで繋がった2つの分銅を撃ち出して捕縛するボーラガン。筆者お気に入りの対人間武器で、ヘッドショットなら一撃で相手を昏倒させる

 サムを襲う敵は「バンデット」、「ブリガンド」、「武装サバイバー」といった人間達、霊体のBT、「ゴーストメック」なるロボットに分類され、対象によって効果のある武器も異なる。最も使いやすいのは「MP(Multi-Purpose=多目的)バレット」を搭載した武器で、人間に使っても殺傷することがなく、対消滅(ヴォイド・アウト=死にゆく人間がBTと接触して起こる大爆発)の心配もない。武器によっては殺傷能力を持つ強力なものもあり、それらは対BT/ゴーストメックに使用することとなる。

人間は気絶させて倒すのが基本。万が一殺してしまったときは、対消滅前に遺体の処理ができる場所まで運ぶ必要がある
赤い色をしたロボット、ゴーストメック。いくつかの種類が存在し、攻撃手段や耐久力などが異なる
BTにはMPバレット使用する武器や専用の「ブラッドグレネード」が有効。サムの血液をチャージして投擲する「ブラッドブーメラン」なども新規に登場した

 正面からの戦闘が苦手な人に向けて、ステルス行動に関連する要素も充実した。静音に特化した武器やブーツ、しゃがんだ状態で素早く移動できるアクティブスケルトンなどの装備品のほか、サムが隠れられるポスト、敵の居場所を事前に把握できる監視塔など、設備にもステルス行動を補助するものが存在する。このあたりはかつてステルスゲームを世に広めた 小島監督の作品らしいプレイフィールを感じられるはず。なおステルス行動はBTにも有効で、しゃがみ歩きと「息止め」などを駆使してBTに見つからないように座礁地帯を突破する手段は筆者も多用していた。

本作の設備の一つ、監視塔は敵のいる場所と数を瞬時に把握でき、敵を全て倒すかこの場所から離れるまで状況を確認できるようになった
敵拠点に潜入し見つからないように荷物を奪う、純然たるステルスミッションも存在する

 それでもやはり戦闘は苦手という人のために、難易度設定は4段階用意されていて、プレイ中にいつでも変更が可能だ。ゲーム進行特化の最も易しい「Story」なら、敵から受けるダメージは最低かつ敵に与えるダメージは最高(反面、依頼達成時の評価は低めになる)という設定もあるので、腕に合わせて試してみてほしい。

サムワン同士やNPCとの繋がりも見える、進化したソーシャル・ストランド・サービス(SSS)

 自身と他のプレーヤーとのオンラインでの“繋がり”をシステム化した「ソーシャル・ストランド・サービス(SSS)」についても触れておこう。今回のゲームプレイではプレビューのときと同様、テスト用のネットワークサーバーに接続され、テストプレーヤーが建造したフィールドの建造物や落とし物、国道に投入した資材量などゲームの進行の一部がオンラインで共有される、製品版に近い仕組みを体験している。

マップ上に現われる他のプレーヤーの建造物は、自分が建てたものと同様に使える
ボスなど強力な敵との戦闘時は、他のプレイヤーの影が現われて助けてくれることも

 今回のSSSはそれだけでなく、互いの施設などを何度も利用して「いいね」を贈りあった回数などで、特定のサムワンと親密度が上がると、「ブリッジリンク」からその相手のプレイデータなどを見られるようになった。ゲーム進行に直接影響はないが、どんな相手と繋がっているのかを眺めるのはゲーム中のちょっとした息抜きや目標にもなるだろう。

ブリッジリンクによる他のプレーヤーとの親密度。誰がどこに「いいね」をしてくれたのかがわかる

 またSSSはゲーム中のキャラクターとも繋がっていて、依頼完了やイベントの後にお礼のメッセージが届いたりする演出もある。グループSNSのように他のキャラクターがコメントを挟んでくることもあり、キャラクター相互の繋がりも楽しめ、物語上では見えない彼らの性格を楽しめるようになっている。

登場人物からのメッセージは写真付きで贈られてくることもある

小島監督の“好き”と“苦労”がエンターテインメントに昇華された大傑作。もう2周ぐらいは飽きずに楽しめそうな予感がする

 この「DS2」を改めてラストまで進めた感想としては、前作で確立した移動と配送を楽しむ「DS」ならではのゲームデザインの大幅進化を味わえたのと同時に、小島監督が自身の“好き”と“コロナ禍における心境”を全力でエンターテインメントへと昇華しようとするモチベーションを強く感じられた。

楽曲のチョイスと使い方も最高だ。本作をプレイすれば、B.J.トーマスの「雨にぬれても」が好きになる人は多いはず

 ゲームの進化についてはこれまで述べた通りで、荷物を運ぶだけでなく、そのためのインフラ構築も実に楽しいものだ。小島監督はプレビュー時のインタビューで「『どうぶつの森』が好きな人は『DS』シリーズも好き」という話をしていたが、目的のために環境を整えていくゲームデザインは「Minecraft(マインクラフト)」に近いようにも思える。製品版発売以降のオーストラリア大陸がどんなふうに作られていくのかも楽しみの一つとなるだろう。

 ゲームのメインストーリーに関連する見せ方や演出は映画そのもので、全編において見応えがあるものに仕上がっていて、小島監督のセンスを改めて体感することができた。シナリオには小島監督が本作開発中のパンデミックで味わった艱難辛苦が見え隠れし、それを乗り越えようとする想いも併せて描かれているような気がした。

安部公房の「縄と棒」の概念は本作にも引き続き込められている

 ハードなメインストーリーが描かれる一方で、コミカルな演出が要所に盛り込まれているのも小島監督の作品らしいところ。その筆頭となるのが、今回のサムの相棒となるドールマンで、コメディリリーフ的な彼との会話は、長い道のりを踏破する上での癒しとなる。演じる杉田智和さんの声質や演技力も、その魅力を倍増している。

旅の相棒ドールマン。ナビゲーターとしての役目だけでなく、サムの話し相手や、偵察用のアイテムとしても活躍する

 また楽曲や著名人、企業などとのコラボは、現実世界と「DS」の世界と上手く結びつけていて、出会うたびに驚きと感動があった。特にサムが温泉に入ったときの演出は筆者にとって涙が出るほど感動できるものだったので、温泉を見つけたらぜひ□ボタンを長押しして湯に浸かっていただければと思う。

本作にも温泉が登場。なんと自分で源泉を探して温泉を作ることも可能となった

 ゲームを一通り終えた筆者ではあるが、世界中のサムワンと繋がれる6月26日以降の「DS2」の世界は、テストサーバーを介したものとはまったく違ったものになると確信している。プレビューから数えて3度目となる筆者とサムの旅路は、これまで選ばなかった選択肢のもとに進めてみようと考えている。